DEPT×KAPOK KNOT対談・前編 「カポックが作る、サステナブルな世界」
4月17日から7日間に渡り行われた、Peaceful climate strike。
日本の気候変動対策に抗議の意を示すと同時に、この現状に関心を持ち、一歩行動に踏み出す人を増やしたいという思いで行われた活動です。期間中の4月22日、このアクションを主導されたDEPT代表のeriさんと、KAPOK KNOT代表深井のIG LIVEが実現しました。
そもそもDEPTとKAPOK KNOTがコラボレーション製品を作る流れから、実現したこの対談。eriさんと深井が語るアパレル業界やモノづくりへの想いを、前後編でお届けします。前編では、カポックという素材とブランドが目指す世界観について、eriさんにとことん掘り下げていただきました。
【目次】
・対談者プロフィール
・カポックシートという新素材
・カポックがサステナブルな理由
・カポックのさまざまな用途
・カポックを通じて実現したい未来
対談者プロフィール
DEPT Company代表/デザイナー/アクティビスト eriさん
83年NY生まれ東京育ち。古着屋DEPTを通じて可能な限り環境負荷のかからないライフスタイルや企業としてのあり方をSNSを通し発信し、気候変動・繊維産業の問題を主軸にアクションを行なっている。近年ではNY在住の文筆家・佐久間裕美子と社会問題を主題としたPodcast”もしもし世界”の配信を始めるなどファッションの枠を超え活動している。
〜Peaceful climate strikeとは〜
4月22日に米国主導で開催された主要排出国との気候サミット。6月11日の脱炭素が主要議題となるG7、そして11月に開催されるCOP26。日本の気候変動対策の「これから」が決まる今、日本における脱炭素社会の構築について考えるきっかけを作る目的で開催された7日間のアクションです。
「共鳴のハンガーストライキ」と題して24時間水と塩のみの断食を行う運動が行われたほか、期間中は、この活動に共感するさまざまな人たちが、皆で気候危機について考えるトークイベント等が行われました。
Peaceful climate strike HP:http://www.p-c-s.tokyo/
KAPOK KNOT代表 深井喜翔
2014年慶應義塾大学卒業後、ベンチャー不動産、大手繊維メーカーを経て、家業である創業75年のアパレルメーカー双葉商事株式会社に入社。現在の大量生産、大量廃棄を前提としたアパレル業界に疑問を持っていたところ、2018年末、カポックと出会い運命を確信。KAPOK KNOTのブランド構想を始める。1日に10回以上「カポック」と発する自称カポック伝道師。
カポックシートという新素材
eri)カポックって、日本人にはあまり耳慣れない素材だよね。
深井)カポックは世界に150種類もある植物で、実は日本でも観葉植物として知られていたりします。KAPOK KNOTは、インドネシア原産のカポックの木の実から取れた綿を薄いシート状にして、植物由来の防寒着を作っているブランドです。
eri)植物自体はよく見るけれど、名前は認識してなかった…!シートにする技術って、特殊なものなの?
深井)カポックは繊維が非常に短くて軽いため、糸にしても飛んでいってしまうという特性があり、これまでアパレル業界ではあまり使われてきませんでした。でも私たちは、それをシート状にして乗り越えたんです。僕の前職が、繊維メーカーだったのと、父がカシミヤ屋、母親が布団屋という家系で生まれたこともあり、いろいろな技術を駆使した結果、服にして提供することができるようになりました!
カポックに出会ったきっかけ
eri)そもそも喜翔くんが、カポックに出会ったのはいつ?
深井)前職の繊維会社で素材の勉強をしていた時に、たまたまカポックのことを知りました。でも「カポックは繊維として使えないので、覚えなくていいです」と言われたくらい、全く注目されていない素材でした。僕は当時からカポックの特徴が面白いなと思っていたので、先ほどお伝えした家業との兼ね合いや、前職の技術を用いて、新しい繊維として開発することにしたんです。
eri)たしか、わざわざインドネシアまで行ったんだよね?
深井)実物を見ないと始まらないと思って、現地に行きました!ただ、カポックはトレーサブルな素材ではなくて。現地ではそこかしこに自生しているから、どこを訪れるべきか全く分からなかったんです。なんとかインドネシア領事館に頼んでカポック農家を紹介してもらい、現物に出会うことができました(笑)
eri)すごい行動力…本当に尊敬する。
カポックがサステナブルな理由
eri)カポックって綿花と比べて循環性の高い植物だと認識しているんだけど、それは木の実だから?
深井)そうですね、綿と比べて8分の1の軽さであること、毎年なる木の実であることから、生産性はとても高いです。今、世界的にグリーンを増やそうという流れもあるなかで、木を伐採しなくていいということは素晴らしいポイントだと思います。それに自生力も強いので、育てるのに農薬や水もほとんど必要ない。僕がカポックに惚れ込んだ理由の一つです!
eri)ちなみにカポックは、世界的には何に使われることが多い植物なの?
深井)一番多いのはクッションなどの詰め物です。従来、インドネシアなどの原産国ではマットレスの中綿として使われることが多かったのですが、だんだんスプリング(バネ)のマットレスに代わっていってしまって、現地では需要が減っていたんです。そのため「カポックの木の実だけじゃお金にならない」と言って、木を切って木材として売るという状況が発生していました。こんなにいい素材なのに、使い道がなくて活かされていなかったんですよ。
だからこそ、ダウンの代わりに使うという文脈を作ることで、現地の雇用を守りながら森林も守っていきたいと考えるようになりました。僕がアパレル業界でこの先何十年もビジネスをするにあたって、カポックに取り組む理由がそこにあると思いました。
カポックのさまざまな用途
eri)そういえば、カポックって油を吸収するのにも使えるんだよね?
深井)そうなんです。カポックは自分の重さの30倍の油を吸うので、例えば海に流れている重油を吸うことができます。
eri)タンカーが座礁した時に出る重油をポリマーみたいなシートで吸うと、結局ゴミを出してしまう。この間のモーリシャスの時も、重油を石油由来のもので吸うことにジレンマを感じていたんだよね。だから、もしカポックで代用できるならすごくいいなと思った。
ちなみに、中綿や油吸着の用途ではなく、KAPOK KNOTが着目している防寒性、暖かさという意味では、これまであまり注目されてこなかったのかな?
深井)そうですね。布団として使われることはあったらしいんですが、インドネシアはそもそも暖かいので、そんなに注目されていなかったようです…!
カポックを通じて実現したい未来
eri)じゃあ喜翔くんはカポックを通じて、社会が、アパレル産業がどう変わっていったらいいと思っている?
深井)実現したいのは、サステナブルへの参加コストを下げることです。KAPOK KNOTの製品は、機能→デザイン→サステナブルの順番で特徴をうたっていて、「こんな機能がおすすめです」→「デザインはこれがオシャレだと思います」→「それ、実はサステナブルにつながっていたんです」という世界を目指しています。この流れで商品を体験してもらうことで「私にとってもサステナブルって身近だったんだ。じゃあいろんなものを試してみよう」というきっかけを作れるんじゃないかと思っています。
今、eriさんがいろいろな活動をされているなかで、やっぱり自分とは縁遠いなと思っている人もいると思います。だから「はい、今からサステナブルをやりましょう!」という分断された社会じゃなくて、徐々に参画していけるようなグラデーションを作っていきたいというのが、KAPOK KNOTとしての想いです。
eri)たしかに0か100という世界は難しいと思うから、グラデーションという言葉のチョイス、すごくいいと思います。賛成。
こういう活動をしていると、求心的な態度になりすぎたり、自分が理想とする世界になってほしいと、思い切り舵を切ろうとしてしまう。でも、モノづくりをする上でグラデーションをつけて、製品を手に取ってくれる人と一緒に歩んでいけるスピード感を意識するのも、すごく大事なことだよね。
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カポックが実現するサステナブルな世界観や、KAPOK KNOTが目指すグラデーションを作るという役割について、eriさんに強く共感いただけたようですね!
さて、後編では計画中のコラボレーション製品のお話や、お互いが感じているアパレル業界の課題について、さらに熱く語っていただきます。