カーボンニュートラル勉強会レポート・前編 「なぜ今、カーボンニュートラルなのか」
最近、ニュースでよく耳にする「カーボンニュートラル」という言葉。なぜ急に聞く機会が増えたのか、疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。
ブランドとして脱炭素化に取り組む私たちKAPOK KNOTは「カーボンニュートラル」についての理解を深めるため、銀座ショールーム「The Crafted」にゲストをお呼びして、勉強会を開催しました。今回はその模様を前後編でレポート!前編は「なぜ今、カーボンニュートラルなのか」という切り口で、日本や世界の取り組みを伺います。
<目次(前編)>
・パネリストのご紹介
・そもそもカーボニュートラルとは?
・カーボンニュートラルに関する目標
・カーボンニュートラルに向けた日本の動き
・カーボンニュートラルを実現する技術
パネリストのご紹介
この前編は、経済産業省・蓑原さんからのお話がメインとなります。カーボンニュートラルの計画・企画推進を実行する部署にいらっしゃる蓑原さん。「グリーン成長戦略」という国家戦略の策定に関わられたということで、「そもそも、カーボンニュートラルとは何か」「世界/日本のカーボンニュートラルへの動き」について主にお話しいただきました。
そもそもカーボニュートラルとは?
蓑原)カーボニュートラルとは「CO2の排出を実質ゼロ」にする取り組みです。なぜ、「実質」かというと、完全に排出量をゼロにすることはできないから。可能な限りゼロに近づけて、その上でどうしても排出されてしまうものはできるだけ回収する。そうやって、全体的に実質プラマイゼロにすることを目指しています。
蓑原)現在CO2の排出量として大きいのは、電力です。一番使われている火力発電でもちろんCO2が出るので、再生可能エネルギーや原子力発電など、CO2が出ない方法に変えていきます。また、火力発電でも燃料に水素やアンモニアなどCO2が出ないものを使用することも可能です。
次に多いのは、産業部門、そして運輸部門です。脱炭素化された電力を使ったり、輸送車を電気自動車や水素自動車にしてできるだけ減らしていきますが、どうしても出てしまう部分は、植林などのCO2回収技術を使って、プラスマイナスで考えた時にCO2をゼロにしていきます。
深井)つまり、現状排出しているものを減らす動きと、回収する動きに分かれるということでしょうか?
蓑原)そうですね。回収技術としては、今すでに様々な取り組みが行われています。CO2と水素を組み合わせてメタンにして燃料化したり、アルコールを作って化学製品にしたり。CO2は空気中に気体として出て初めて悪さをするので、個体や液体にして温室効果を発揮させないようにします。あとは地中に埋めるという事例もあり、苫小牧で実証実験が成功しているのですが、まだまだコストが高いのが現状…。いかに価格を安くするか、埋めるための適地を効率的に見つけるかというのが今後の課題です。
カーボンニュートラルに関する目標
蓑原)赤い地域が、2050年までにカーボンニュートラルを実現すると表明している国々です。中国は2060年までに実現することを表明しています。
では、最近なぜカーボンニュートラルが加速しているのか。もともとカーボンニュートラルを実現するには新しい投資や人材育成が必要だと考えられてきましたが、最近は考え方が変わり、むしろ地球温暖化対策を行うことが成長の原動力となると考える国が多くなってきたからです。
極端なのがEU。グリーンリカバリーと言って、コロナ禍で落ち込んでいる成長を、環境政策の取り組みで回復していこうという考え方で動いています。例えば、タクソノミーと言って、全ての商品やサービスを「グリーン」か「グリーンじゃない」かで分類し、グリーンと判断された取り組みにしかお金が回らないようにする取り組みがあります。これにより、世界的に売れているトヨタのハイブリッドカーはCO2が完全に出ないわけじゃないから「グリーンじゃない」と判断されてしまう。それに対し、EUの自動車メーカーは電気自動車や水素自動車に全力投資して、産業を成長させるという戦略をとっているわけです。
深井)地球温暖化対策といえば、学生時代初めて習ったのが京都議定書なんですが…あれはどうアップデートされているんですか?
蓑原)京都議定書は先進国にしか課されていない、かつアメリカや中国などが途中で脱退しているので有効性が弱いんです。実際、途上国が途上国が占めるCO2排出量はかなり多いからです。一方で、2015年に採択された「パリ協定」は全ての締結国が目標を負います。
蓑原)京都議定書が義務だったのと違って、パリ協定は努力義務なので多少緩くなっていますが、世界的に脱炭素の流れが加速している中、世界全体で脱炭素を実現していこうというのがパリ協定です。
カーボンニュートラルに向けた日本の動き
蓑原)日本は昨年10月、菅総理大臣の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル」を宣言しています。その達成に向けた戦略が「グリーン成長戦略」です。
なぜ成長戦略なのかというと、EUと同じくカーボンニュートラルに向けた取り組みで日本の産業を成長させていくという考え方をしているからです。エネルギー、産業、住宅など、2050年に向けて伸びていく14の重点分野を選定し、その分野の民間企業や大学等における取り組みを全力で後押ししていきます。
例えば、自動車・蓄電池の分野でいくと、2035年に新車の販売は100%電動車になります。自動車メーカーにとっては、電動車への転換により新しい投資が必要になったり、今持っている技術を失ったり。また、ガソリンスタンドや自動車部品を作っているサプライヤーも大きな打撃を受けることになります。そもそもの産業構造の大転換が必要になるため、国として税制、金融などできる政策を考えまとめているのがこの戦略です。
深井)なるほど。国としてはこうした動きがある中で、村上さんは小売サイドとして、日本で環境に優しいものが売れている実感ってありますか?
村上)エポスカード会員対象のアンケートベースで見ると、8割ぐらいの方が環境に興味を持っていらっしゃる印象です。一方で、何から始めていいか分からず行動に移せないという声も多く上がっています。環境に良いものがお店に並んでいて、可愛いなと思って買った結果環境によかった、という参加しやすい状態を目指したいですね。
カーボンニュートラルを実現する技術
蓑原)先ほどもお話ししましたが、CO2排出量が一番多いのは「電力・エネルギー転換」に使われる部分。次が産業部門、そして運輸部門になります。
例として、運輸部門の脱炭素化イメージをご紹介します。先ほど2035までに100%電動車という話がありましたが、この電動車には電気自動車や水素自動車などのCO2排出ゼロの車種に加えて、ハイブリッドカーやプラグインハイブリッドカーなどの少しガソリンを使う車種も含まれます。ただ、最近ではCO2を原料にしたガソリン(e-fuel)の技術開発も進んでいるため、排出したCO2を再利用することで全体としてカーボンニュートラルを目指す動きがあります。
また、電気自動車を使う時に、車そのものはCO2を出さなくても電気がCO2を出す発電方法だと、ライフサイクル全体で見ると脱炭素にはならないので、再生可能エネルギーや原子力などの脱炭素化された電力を使っていく動きも進んでいきます。
運輸という観点でいうと水素で飛ぶ飛行機や、アンモニアを燃料にして動く船なども研究開発中です。
深井)カポックノットでも最近、オープンソースでCO2排出量を計算したんですが、運輸における排出量が相当多かったんですよね。なので、運輸部門の脱炭素化が実現できてくると、ブランドとしての脱炭素も叶えられると思います!
蓑原)そうですね。運輸の脱炭素化が他業界に与えるインパクトは大きいと思います。あともう一つ、技術としてご紹介したいのは「ネガティブエミッション技術」というもの。
DAC(Direct Air Capture)と言って、火力発電などで出る濃いCO2を、大気中から直接回収する技術です。回収されたCO2は水素と組み合わせて合成燃料になったり、地下に貯留したり、植物を育てる工場や炭酸飲料に使ったりという技術開発が進められています。
深井)ネガティブなものがプラスなものに変わる可能性を秘めている、というのは面白いですね!
蓑原)そうですね。技術とは離れますが「カーボンプライシング」という政策も進んでいます。
蓑原)その名の通り炭素に価格をつける政策のことで、例えば「炭素税」はCO2の排出量に応じて税金をとる仕組みです。日本でもすでに「地球温暖化対策税」としてお金をとり始めています。ただ、国同士でレートが異なってくるため、平等にするために考えられたのが「炭素国境調整措置」です。「自国のCO2の価格が高いなら、安い国で作って輸入すればいい」という考え方を見越して、安い国から高い国へ輸入する場合は高めの関税を課す、という仕組みが検討されています。
蓑原)でも、炭素税を高く設定しすぎてしまうと、CO2削減に取り組む企業の体力がなくなり逆効果をもたらしてしまう可能性があるとして、日本ではまだ議論中。今年の夏、何かしらの方向性が示される予定です。
深井)なるほど。KAPOK KNOTの事業に炭素税を当てはめると、例えば普通の素材より、環境配慮素材の方が安いということが今後起こりうるかもしれないですね!
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なぜ今、カーボンニュートラルなのか。そして、世界はカーボンニュートラルに向けてどのように動いているのか、理解を深めていただけたのではないでしょうか。
後編は、丸井グループ・サステナビリティ部の村上さんから、「企業の具体的な取り組み」についてご紹介いただきます。
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